(創作)放課後七不思議クラブ<7>

第一回ＧＡ後期テーマ大賞応募作の第七話です。

～音楽準備室の、開かずのロッカー～

音楽準備室に、歪んだ、開かないロッカーがあるでしょ？
あれ、壊れてるんじゃなくて、あそこで死んだ子の呪いなんだって。
昔、吹奏楽部に、地味で目立たない子がいてね？よくからかわれてたんだって。
ある日、冗談で彼女が使ってた楽器が隠されてね？その子は必死で探したんだけど……
準備室で、高いところを探してるときに踏み台から足を滑らせて……
あのロッカーに、頭ぶつけて、死んじゃったんだってさ。
それ以来、時々、聞こえてくるらしいよ。あのロッカーから。
楽器を返して、楽器をちょうだい、って……
そうして、開いたあのロッカーに楽器を渡すと……
「あなたが隠したのね！」
そう言われて、その晩、その楽器で呪いの曲が奏でられて、渡した人は発狂しちゃうんだってさ。

「……開かないロッカーなんざ、さっさと捨てればいいのにな」
「あはは、そう言うと身も蓋もないねー」
時刻は、再び夜。
萌黄が仕入れてきた話を聞いて、思わず俺はそうつぶやいた。
文句の一つでも言ってやらなきゃやってられない。いやな気分になる話を聞かされたもんだ。
隠された楽器、それを探している途中に死んだ少女、か。
……今の真白と重なりそうになる。
「昨日のあの子も吹奏楽部の子だって言うし、どうもこの話で確定っぽいから、今日は『出せる』。さくさく行くよー」
それに対し、萌黄の声は軽いものだった。
「随分お気楽だな、まったく」
「えー？だってクロちゃん強いし。大丈夫っしょ」
……緊張感の欠片もない。というか、お前もか萌黄。何でこう、どいつもこいつも簡単に俺のことを信頼するかね。
はぁ、と溜息をつく。
「んー？だってむやみに怖がってもしょうがないしさ。あ、なんなら緊張ほぐすために抱っこしたげよっか」
「……！」
「あーそー威嚇しないしない。分かってる。シロちゃんじゃないと駄目なのね。あー羨ましいなあ」
「あ、の、な！何度も言ってるが、俺がアイツに抱きつかれてるのは、長年一緒に暮らしてるからあいつが俺の隙をつくのが上手いだけで、別にあいつだから許してるわけじゃない！」
つーか、一見嫌味に見えずに心底残念そうなのが本気で腹立たしい。見捨てて帰ってやろうか。
「……気になるよね」
と、そんなことを考えた俺をけん制するかのように、萌黄は急に真面目な声になって、校舎に、それも音楽室のほうに視線を向けた。
「シロちゃん、フルートなくしたんだって？このタイミングで。……無関係なら、いいんだけど」
……。
懸念していたことをずばり指摘され、俺の帰ってやろう、という気持ちは見事に霧散させられる。
だが。
『七不思議』を発動させたのが真白なら……ロッカーに楽器を渡したのが真白なら、失くしたという態度はおかしいし、昨日あそこにいたのは知らない少女ではなく真白であったはずだ。
だいたい、怖がりの真白が七不思議なんかに遭遇したら、あんな様子でいられるもんか。
なら……一体。
萌黄も同じ疑問を抱いているのだろう、何か引っかかるが腑には落ちない、そんな態度でしばらく考え込み。
「ま、考えてもしょうがない、か」
しかし、やがてあっさりとそう告げる。
「とにかく、『七不思議』は何とかしちゃわないとね。それでシロちゃんの安全はとにかく確保できるんだし」
文句を言う前に彼女はそう続ける。
俺は、少し唸った後……しかしとくに反論する言葉も浮かばず、彼女に続いて歩き出したのだった。