凪池 シリルが時折ぽつぽつと呟く場です。 ゲームの話題が中心。日常ネタもそこそこと。 ちょっとずつ、何か書いて行けるといいなあ。
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なんか久しぶりに書きたい気分になったので今回は小説もどきです。
……いや、この遺言、好きなんですよね個人的に。
そんなわけで本文は続きからどうぞ
↓↓↓
……いや、この遺言、好きなんですよね個人的に。
そんなわけで本文は続きからどうぞ
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あの日の光景は、今も時折ふと、鮮明に蘇ってくる。
木漏れ日差す林の中。
湿った空気と木々の香り。
土を踏みしめる足と、草木をかき分けた掌の感触。
それから、
「……もういいか? もう帰ろう。この季節では見つからないぞ」
探しに来てくれた当主様の、困ったような優しい声。夕暮れの中を、手を引かれて歩いた記憶。
幼かったあの日のことは、やけにはっきりと覚えてしまっている。
――遺言。
死に瀕して、最後にいい残す言葉。短い生の中やり遂げたこともやり残したことも多いだろう俺たち一族のものは、その一言に人生を遺してきた。幾つかの死に立ち会い、記録を眺めて、感銘を受けたものは少なくない。
その遺言。人生の最後の一葉ともいえる、それをだ。
俺の阿呆親父と来たら。
「あ。ふきのとう食いてえ」
……なんて言う、間抜け極まる一言を遺して逝きやがったのだ。
幼いあの時は、それでも親父の死という衝撃に、親父が求めたものを探しに衝動的に屋敷を飛びだしてしまうくらいに純真だった。けど、月々成長するにつれて、そのあまりの馬鹿らしさを理解するにつれ苛立ちが増してきた。おい、幼い俺を遺して逝きやがったんだぞ。もう少し何とかならなかったのか。
何が腹立つって、あまりに間抜けすぎるが故に逆に忘れられないことだ。本当にその一言は、ふとした折に……それこそ戦いの直前ですら浮かび上がってきやがるもんだから。
『――お前の進言は、いつも堅実で助かるよ』
いつの間にか、俺は当主様から、そんな風に言われるようになっていた。
ああそうだ。俺の戦法はわりと慎重だ。無理に前に出ない。回復は余裕を見る。勝ちたいというより、死にたくないという気持ちが強い。
別に、戦うことは怖くない。傷つくことだって、仲間がいれば耐えられる。
死にたくないと思うのは、だから。
親父が言い残したふきのとうを。
俺はまだ、見ていない。
親父が言い残したふきのとうを。
俺はまだ、見ていない。
それまでは。
その季節までは。
……全く、腹が立つ。
分かってるからな。あんたは、別に狙ってこんな言葉残したわけじゃない。ただ、いつものように飄々と、その時思いついたことをつい口にしただけだろう?
感謝なんてするつもりは、これっぽっちもないからな。
そう、感謝なんてするものか。大体――
「なんだよ。別に対して旨くもねえ」
そうして今日。やっと初めて食べたふきのとうは。
「こんなもんだよ、な」
その程度にしか、俺には思えなかった。一応、死に際に食べたいものとはどれほどのもんかと、それなりに期待していたのに、結局これだ。
「……こんなもんだよ……な」
確かめるようにもう一度、俺は呟く。
親父なんてこんなもんだ。それが、親父が最後に俺に遺してくれたもの。それもこれで……仕舞いだ。
これでもう振り切れる。あんたへの未練も、幼かったが故に遺された憧憬も。
「……今度こそ、じゃあな。親父。俺はもう恐れない。それじゃあ」
――ちょっくら、あんたの仇を倒してくるよ。
もう、親父の言葉に未練はない。
これからは、安心して、遠慮なく。
あんたの先を、越えてやるよ。
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はぐれ雑文書き:凪池シリルです。
現在テラネット主催のウェブトークRPG Catch The Sky にてマスター活動中。ご縁がありましたらよろしく。
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