(創作)放課後七不思議クラブ<10>

第一回ＧＡ後期テーマ大賞応募作の第十話です。
今回で完結になります。

帰り道。
「あれ？シロちゃん？」
偶然なのかわざとなのかは知らないが、萌黄に遭遇した。
「わ、キーちゃん、こんばんわ。出かけてたの？」
「ん、ちょっとコンビニにねー、ってあれ？」
気軽に挨拶を交わしたあと、萌黄が、明らかに不思議そうな声を上げた。
「わー珍しい。クロちゃんデレ期？」
俺に抱きついたまま歩く真白を見て。
「えへへ。クロノ、今日はありがとね」
そう言って真白は、俺を抱きしめる腕にぎゅっと力をこめる。ぐ……この絶妙な力加減が……気持ちいいじゃないかくそう。
……でも、萌黄にからかわれて真白にうっとおしく懐かれて、少し不愉快ながらも俺は今真白の腕から逃れようとは思わなかった。
まあ、今日くらいは、いいか……そんな気分になるときも、あるさ。気紛れに。
「ふーん……」
萌黄は相変わらずにやにやとしながら、俺と真白を交互に見ていた。
「ねえシロちゃん、クロちゃんのこと好き？」
「え？大好きだよ？」
ぎょっとして、俺は顔を上げた。萌黄も真白も、さらっと何言ってんだ！
「んじゃあさー、もっと仲良くしたいと思わない？もっとずっと一緒にいてさ、いつでもこうやって抱きしめられてさ」
問われて真白は、ん、んーと考え始めた。
「そりゃ、いつもどっかにふらふらーっといっちゃうのは心配ではあるんだけど……」
つぶやきながら真剣に考え込んでいるのを見て、俺は緊張で全身が冷えていくのを抑えられなかった。
……彼女は、どう答えるんだろうか。
その答えに対して、俺はどうしたいんだろうか。
ずっと一緒にいたいといわれたら俺は、自由であることをやめて、完全に佐久間家の一員となることを選べるんだろうか。
いつか嫌われて見捨てられる恐怖におびえながら、自由であり続けることを選べるんだろうか。
どっちがいいのか分からない。
どっちにするのか分からない。
その答えが見えそうにないから、ずっと避け続けてきたのに。
「んー、わかんないや。どうするのがいいんだろうね？」
やがて真白がそう答えるのが聞こえて、へなへなと力が抜けていくのを感じた。
「今、幸せだし」
ほにゃっと微笑む真白に対して、萌黄はちょっと首をかしげてから、
「そっか。まあシロちゃんが幸せならいいや」
そう言って、ひらひらと手を振った。

「真白」
二人きりになった帰り道、俺は珍しく真白に向かって声を上げる。
零さずに入られなかった。安堵感から。真白が、今の俺を受け入れてくれることに対して。
……俺は真白が、佐久間家の人間が大好きだ。
それでも……黙って真白に抱きしめられながら、明日からのことを思う。笑顔の真白。この笑顔が見られれば、明日からはいつもの俺に戻れる。
勝手気ままな、マイペースな、俺一人の生活に。
どれほど佐久間家になじもうとも、そうありたいと思う、自然とそうなってしまう俺の気持ちもまぎれもなく真実だ。
だから……ごめん、真白。これからも俺はこの距離を保ち続けようとするだろう。
どうかこれ以上べったりすることを、俺も真白も望まないように。
でも。
「俺も……大好きだよ、真白」
たまにはこう、つぶやいてみるのもいい。恥ずかしいけど……まあいいさ。
それは溜息のついでに漏れるようなかすかな声だったが、真白はくすりと笑って、嬉しそうに俺の頭を撫でた。
……どうしてこう時々、彼女は何もかも分かってるような感じがするんだろうな。
異能を持たない彼女には、俺の声はどうせニャアとしか聞こえてないはずなんだが。

いや、実際、佐久間家も、真白も、きっと分かってくれてる。
どれほど気紛れに行動しても。
さっきまで懐いてたのに、急に逃げてしまっても。
……そうだとも。
俺は、俺たちはきっと変わらない。変われない。
きっとどれほどツンツンしていてもデレデレしていても、そうしてしまうことに深い意味なんかない。
猫ってのはただ、そういう生き物なんだよ。