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凪池 シリルが時折ぽつぽつと呟く場です。 ゲームの話題が中心。日常ネタもそこそこと。 ちょっとずつ、何か書いて行けるといいなあ。

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第一回GA後期テーマ大賞応募作の第五話です。






とはいえ向かう場所は当然、真白にかかわりがある場所な訳で、到着したらやはり多少何かしらは思われるんだろうなあと思うとやや気持ちが萎える。今日は諦めて萌黄に付き合うだけにしときゃよかったか、などと思い始めたところで――俺は足を止めた。
「ん?どした?」
暗闇のせいでやや遅れてついてきていた萌黄が、立ち止まった俺に気がついて声をかける。
「なにか……聞こえる」
向かう先から何か聞こえてくるのを、俺の耳は捉えていた。
物音ではない、それははっきりと、音。どちらかといえば心地よい。
「あたしには聞こえないけど……どっちから?」
しばらく耳を澄ませていた萌黄が、真剣な様子になって問いかけてくる。
俺は無言で、再び歩み始める。ゆっくりと、慎重に。
そして、たどり着いたのは俺が目的としていた場所。
そう、俺はふと気づいたのだ。真白が困っていることに対して、萌黄には何のことだか良くわかっていない様子に。
真白が「何かを失くした」ことに気がついたのがもし日中であれば、友人でクラスメイトである萌黄が知らない筈がない。
ならば、真白がそれに遭遇したのは放課後。萌黄と別れたあと。
だとすれば学校内で探してみるべき場所は――真白のクラブ活動に使う場所。もちろん、真っ当な意味での。
「音楽室……これが今回の現場、か。まあ噂になりそうな場所だねえ」
扉を前に、萌黄がつぶやく言葉は、はっきりと緊張に満ちていた。
ここまでくれば萌黄にも聞こえているだろう、扉からもれてくる澄んだ音に。
やがて彼女は一度ごくりと息を呑むと、扉に手をかけ、一気に開け放つ。
すっかり闇に慣れた眼で、ぐるりと室内を見回すと――そこに、一人の少女がいた。
肩までかからないほどの真っ直ぐな髪をかすかに揺らしながら、その少女は呆然とした、意志を失ったかのような表情で、準備室のほうを見つめていた。この音色に魅入られるようにして。
その結果が……至福の道に至るのか狂気の世界に連れて行かれるのか、それは分からない。今この学校に生まれつつある『七不思議』の内容次第だが、俺は知らない。……が、学校の七不思議なんて大概が怪談で、まともな結末には至らないのがほとんどな訳で。
「萌黄っ!」
俺は叫んで、萌黄の方を見る。
言われるまでもなく既に眼を閉じていた彼女を確認して、俺は再び少女のほうへと向き直った。

さて。
怪異の起こる現場がほぼ限定的に中学校な理由については、一つの仮説がある。
怪異を引き起こすのは人間の想像力であり、本気の想像力の行き着く先が、限定された空間に集中することによりエネルギーを生み出すというものだ。故に出現位置が「学校」の、しかもだいたい決まった場所に限定されやすい「学校の七不思議」のみが、噂を現実化させるだけのエネルギーを得ることができる。
そして、怪異に発生する条件があるように異能に目覚める少年少女にも特徴がある。それが……まあ、やっぱり想像力、それも常識を外れた想像力にあるわけで……例えばゲームやアニメにかぶれすぎたりして、ありえないような想像、いや普通は妄想と言った方がいいようなものを普段から本気で考えている奴。極端な例を挙げるなら、「中二病」とか「邪気眼」とか言ったら分かる人には分かるだろうか。
それが何らかの力の方向性を持ったときに、上手い具合にというか下手したらというか、これまた具現化してしまうことがある。
それを踏まえて、萌黄のこと。
彼女の異能の発端――妄想はなんだったのかと言うと、「あたしが眼を閉じているとき、世界はどうなってるんだろう」とのことらしい。
自分が見ていない間、世界は全然違う姿をさらしていて、普段自分たちを騙している何かがその正体を明かしているのではないか、と。
ある日ふと感じたその疑念を、彼女はその後眼を閉じるそのたびに考えるようになった。
――その結果。
少女の周囲が歪み始める。準備室から漏れでてくる音は、じわりじわりと染み出すように黒い染みになっていき、粘液状のような姿で少女に伸びていくのが見える。
そう、萌黄がその力を発揮しようとしたとき――『萌黄が眼を閉じている世界』では『何か』があればその存在を秘匿することが出来なくなる。たとえそれが音や空気のような形のないものであっても、何らかの意図的な力を及ぼしているのであれば『正体』を形作られる。
さらに力を深化させれば、ある程度は彼女の『眼を閉じている間きっとこんなことになってる』という妄想にしたがって空間を操作することも可能だが、ひとまずはそこまでする気配はない。具現化し、他者の介入を可能にしたところで、ここからは俺のフォローに期待しているのだろう。そのほうが効率はいい。
俺は背中を伸ばして天を仰ぐ。
大きく息を吸い、月に向かって一声、哭く。俺の影が膨れ上がり、金色の瞳に力が宿る。俺の『魔性』の発現。
ぶわっと、全身の毛穴が広がるような感触と共に俺の影が、萌黄が発生させた『染み』に向かって伸びる!
……俺の能力は、『影』を操り、それを介して対象に主に精神的に干渉して見せるという、まあ萌黄のそれに比べれば大してひねりのない平凡なものだ。どっちがマシなのかといわれると難しいとは思うが、まあどうでもいい。
『影』を、こちらに向かってくる形作られた『音』にまとわりつかせて、俺はその動きに干渉する。俺と、萌黄と、それから少女。それらにまとわりつこうとする『音』の染みをはじき返そうとする。
瞬間、『音』が、さらに強くなる。『音』が、『染み』が、さらに鋭く、明らかに攻撃的な意図を持った鋭角的なフォルムを形作り、俺と萌黄に向かってきた。
反射的に俺は、向かい来る『染み』にまとわりつかせた『影』に力をこめる。俺と萌黄に向かう『音』が、『染み』がばしゃりと弾け霧散する。……と、同時に。
「あああぁあぉうあ――……!」
突如、少女がおよそ正気とは思えない叫びを上げて、弾けるようにその場を駆け出し、音楽室を飛び出ていく!
……どうする?俺は準備室と少女、双方に視線をめぐらせる。
「追いかけよう!」
同時に、萌黄が叫んで、少女を追って走り出した。
……まあ、そうするか。俺はひとまずふっと全身に力をこめて、『音』の触手を全力ではじき返すと、遅れて駆け出した。
少女は一気に廊下を駆け抜けると、階段を駆け上っていった。それは逃げるための動きではない、ただ何かに突き動かされるままの狂気の走り。
だが、全力で走って大概の人間に負ける俺じゃない。あっという間に萌黄を抜き去り、少女の背中も階段の踊り場あたりで捉えてみせる。
そのまま次の階に到達したあたりで少女に飛びつくと、しがみついて自分の影を彼女の影に介入させる。
本能的に、背中に張り付く俺を振りほどこうと少女はなおもしばらく暴れていたが、やがて少しずつその動きを落ち着かせていき――
「……あれ?私……」
やがて、きょとんとした様子でその場にへたり込んだ。
そんな少女の前に回り込んで俺は金色の目を向ける。
『――忘レロ――』
何か言いかけた彼女をさえぎるように、俺は少女に向けて魔性を発動させる。
『――家ニ帰ッテ、眠レ。ソレデ全テ忘レロ――』
とたん、再び少女の目から正気が失われ。
そして、操り人形のように生気のない様子で、ゆっくりと立ち上がり、歩き始める。
それを確認して、俺はふう、と息を吐いた。
そこに、萌黄が追いついてきていた。
「……あ」
「戻るぞ。こっちは片がついた」
俺はそれだけ告げて、するりと彼女の横をすり抜ける。
「ん」
やがて萌黄はそれだけ返すと、並んで歩き始めた。

音楽室に戻ると、音はもう、止まっていた。
萌黄がゆっくりと眼を閉じる。……が、それでももう、何も起こらない。
「……駄目だね。この七不思議は『被害者』がいないと、動かないみたい。今日はもう、終わっちゃってる」
沈んだ声で、彼女は告げた。
「もっとはっきり正体を掴まないと、これ以上はもう、あたしでも今のところは無理」
「……そうか」
その言葉に、俺もやや沈んだ声で応える。
音楽室の怪、か。まったく厄介なことになった、そう思ったちょうどその時。
「……クロちゃん、また手伝ってくれるよね?」
ポツリと、萌黄が話しかけてきた。
「ああ。そうだな――……」
真白に何かあったら困るし……って!
思わず自然に応えかけて、慌てて我に返る。
「乗りかかった船だしな」
一度息を止めてから続けた時には不自然さはなかったと思う。
まあほら、これに本気で真白が関わってくるなんて思わないしな。ついでだっていうことに間違いはない。はず。
そう。
七不思議と。
真白と。
真白の『探し物』。
関わっているなんて本気で思ってはいなかった。このときは。

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はぐれ雑文書き:凪池シリルです。
現在テラネット主催のウェブトークRPG Catch The Sky にてマスター活動中。ご縁がありましたらよろしく。
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