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凪池 シリルが時折ぽつぽつと呟く場です。 ゲームの話題が中心。日常ネタもそこそこと。 ちょっとずつ、何か書いて行けるといいなあ。

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第一回GA後期テーマ大賞応募作の第二話です。






きぃ、とリビングの扉が開く音がした。
俺はちらりとだけ視線を上げて、入ってきた人物が真白であることを確認すると、無言で食事を再開した。
彼女はそんな俺の態度を気にしたふうでなく、俺の正面に座る。
そして、何度か俺の様子を伺うようなそぶりをみせてから、やがてためらいがちに口を開いた。
「――あのね」
話し始める彼女に対し俺は、聞いているのかいないのかすらも定かではない態度で、もくもくと食事を続ける。
予想はしていた。帰宅時から見せていた憂いを帯びた表情から。何かあったのであろうことは。
そして、俺がこうして食事をしているところにそれを愚痴りにくるのであろうことは。
「ちょっと、困ったことになってるんだよ……」
彼女はそんな俺の様子に、むしろ安堵したかのような表情をみせて本格的に語り始めた。
……動かないということは、逃げないということでもある。
だが、俺が逃げないのは彼女の話に付き合うつもりだからではなく、単純に食事中だからである。それは彼女からも明らかだろう。
これがなんでもないときに話しかけられたのであれば、すぐに俺はじっとして話を聞いているという退屈に耐え切れずにその場を動いているはずなのだ。これは断じて強がりなんかではない。実際に過去に俺と彼女が何度も経験してきていることだ。
だからこそその体験に基づいて彼女はこうしてもっぱら俺が食事をしているときに話しかけてくるようになったわけだが――。
彼女があくまで俺に話を聞いてもらいたがる理由は一体なんなのだろう。
彼女が話している間、俺は何の反応も示さない。相槌すら打たない。
そう、俺は彼女の相談相手にはなりえない。まともな言葉など返さないのだから。
彼女にだってそれは分かりきっているはずなのに。
なのに彼女は、ただ純粋に俺に「話を聞いてもらう」ためだけに俺にこうして悩みを打ち明けるのだ。
それは彼女からすれば、壁に向かって話したところでなんら変わるところはないはずだろうに。
俺はいつもよりゆっくりと食事をしながら――決して、彼女が話し終えるまで食事が終わらないようにと思っているわけじゃない。雑音が混じっているせいで集中できないだけだ。そうに決まってる――俺はいつもの、答えの出ない疑問が頭を支配していくのを感じていた。
何故彼女は、何かあると必ず俺に言ってくるのだろう。
彼女は、いつものように真っ直ぐ俺を見ていた。憂いを浮かべる瞳に、俺に向ける瞳に、それでも慈愛の色を滲ませて。
そして。
「聞いてくれてありがと、クロノ」
そう言って、彼女は笑う。
何がありがとだ。俺なんにもしてないっての。
最後まで、彼女が勝手にしゃべってあげく結論も一人で出した、それだけ。
俺はただ聞いていただけ。それも、真面目に聞いていたのかどうかという態度だ。
それでも、彼女はそれで満足して、何の疑問もなく俺のおかげだと思うらしいのだ。
……なあ、真白、お前からしたら、お前が俺に注ぐ愛情――もちろん家族愛的な意味でだが、そう断っても恥ずかしいなしかし――は、完全に一方通行で、不毛で、何の見返りもないものだろう?
どうしてお前は、そんな気持ちを持ち続けることが出来る?
どうしてお前は、そんな純粋でいられる?
どうせ、俺はお前に何もしない。
どうせ、俺はお前に何もできない。
お前にとって、俺はそういう存在だろうに。
それが家族というものだよ、といわれたら、俺にはひょっとしたら絶対に理解できないものなのかもしれない――生まれたときからこの家に住むというわけではない、俺には。
やがて耐え切れないむず痒さのようなものが襲ってくるのを感じて、俺は食事が終わったのをいいことにふい、とそっけない態度で腰を上げた。
そのまま一声も上げずに、すたすたと彼女の横を通り過ぎていく。
――最後に、彼女の様子を一瞥すると、やはり憂いを帯びたような表情で、でも、帰ってきたときより少し楽になったような表情で、困り笑いを浮かべていた。
俺はなぜか、逃げるように走ってリビングを出ていった。

……そんなわけで、それから数時間後。
俺は、彼女が失くしたと言う、おそらくよほど大切なものなのであろう物を探すために深夜の学校に向かったのだった。


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自己紹介:
はぐれ雑文書き:凪池シリルです。
現在テラネット主催のウェブトークRPG Catch The Sky にてマスター活動中。ご縁がありましたらよろしく。
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