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凪池 シリルが時折ぽつぽつと呟く場です。 ゲームの話題が中心。日常ネタもそこそこと。 ちょっとずつ、何か書いて行けるといいなあ。

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第一回GA後期テーマ大賞応募作の第三話です。






明かりといえば月と街灯のみ。その弱く青白い光に浮かび上がる白い校舎を俺は立ち止まりゆっくりと見上げる。
季節はまだ秋半ば、寒さが本格化するには早い時期なのだが、静まり返ったその空間はどこか身体を冷え冷えとさせるものがあった。
俺は一度息を吐いて、そおっと歩き始める。
そうして、ゆっくりと目的の建物に近づいていた、その時。
「……あれ?まさかクロちゃん?」
かけられた声に、不覚にも俺はびくりと大きく反応してしまった。
いや、正直驚くだろう。慎重に歩いていたとはいえ、それは深夜学校に忍び込むという緊張感や背徳感、あとはまあその場の空気とかを感じてなんとなく行なっていたものであり、実際に誰かいるとか見咎められるということはあまり想定していなかったのだ。
俺は思わずぎぎぃっとぎこちない動作で振り向き、その声の主を確認してしまう。
「ああ、やっぱりクロちゃん、かな」
――直後に後悔する。今のはまずかった。どうやら相手は今の動きで予想を確信に変えつつあるらしい。
この薄暗がりの中、背後から声をかけてきたのだから明確に個体を識別するのは難しいだろう、初めは向こうだって半ば以上あてずっぽうで声をかけたのに違いないのだ。振り向かず、一目散に逃げるべきだった。それならまだごまかせたかもしれないのに。
「そっかー、クロちゃんも来てたのかー」
ニコニコしながら近寄ってくるそいつに、俺は思わずにじり下がる。
やがて薄暗がりの中でもはっきりと視認できるようになったそいつの姿は声から予想したとおりのものだった。
菅野萌黄。この俺と会話することのできる数少ない人間の一人。
「……も、って、なんだ。俺がここにいるからってなんだってんだ」
勝手に人の目的を決めるな。誤解するな。そう含みを持たせて、低い声で俺は応じる。
そこで気づく。
「と、いうか、お前は何でここにいるんだ」
言いながら俺は萌黄の周囲を見回す。まさか彼女も同じ目的でここにいるのか。だとすれば真白もそこにいるんじゃないだろうな――そんな恐ろしい予想が頭をよぎって自然と全身に力が入る。が、とりあえず辺りに彼女以外の姿は見当たらなかった。
そう、萌黄が俺と話が出来る理由の一つが、彼女が真白と友人だという点にある。
同じクラスになったとき真白は、「おんなじ、色の名前だね」という実に彼女らしい単純な理由で萌黄に声をかけ、それ以来友情を育んでいるらしい。単純能 天気の真白と、常にどこか皮肉気な萌黄とで一体どうやって友情が続くものかと常々疑問に思うのだが、まあそこは真白の鈍感力で何とかなっているのだろうと 推測する。
「なんでって、え?クロちゃんは知らないでここにいるの?」
またいつものようにからかわれるかと思って、さてどうやってここにいる理由をごまかそうかと高速で頭をめぐらせていた俺に対し、返って来たのはきょとんとした、意外そうな反応。
「夜中にあたしみたいのが校舎に来るのなんて、決まってるじゃん」
そう言って彼女は緊張気味に、そしてどこか楽しむように校舎を見上げた。
「『クラブ活動』、でしょ――」

萌黄が俺とこうして会話が出来るのは、単に萌黄が真白と仲がいいから、というだけではない。というか、それだけで俺とこんなふうに会話が出来るはずもない。真白とだって俺はまともに会話なんてしてないのだ。
最大の理由は、俺も萌黄も『普通』ではない、ということ。
……世の中には、様々なオカルト話がある。
その大半は、気のせいであったり勘違いであったり捏造であったりとにかく眉唾なものが大半だ。
だが。
学校の怪談――七不思議。
特に中学校におけるこれについては実は、真実であることがある。
少なくとも俺はそれを疑わない。疑えるはずもない。
現実に怪異を眼にし、そして。
怪異が起こる学校には必ず、それに対抗すべく異能に目覚めるものが現れるという現実を目の当たりにしている俺には。
もしかして他の怪談にも、真実は含まれるのかもしれない。
だが現状とりあえず、この事態を認識するものの間で確認されている「現実の怪異」は中学校だけで起こっており、また能力者も中学生にしか現れていない。
故に。
夜の世界、この怪談が現実となる現状を把握し、組織立ってその事態に対処するもの――特に前線に立つ『異能』を発現させたものたちは、自らの活動をこう称している。
『放課後七不思議クラブ』と。

まあ、そんなわけで。
「クロちゃんは知らなかったの?じゃあ何で――」
とりあえず俺の懸念とは全然違う話だったのでひとまず安堵した……のも、つかの間。
「あ、あ、あー……もしかして真白ちゃんになんかあった?」
ぎくりと身体が跳ね上がりそうになるのを、今回は全力で押さえた。
「……別に」
ふいと視線をそらせて、抑えた声でそれだけを返す。全身の血流がやたら早くなっているのを感じるが、まあそれは分かるまい。半ば祈るような気持ちでそう言って自分を落ち着かせる。
「へー。じゃああんたが何の用よ。学校に?」
わざわざ学校にを強調して問いかける萌黄。普通俺がここに用事なんてあるわけない。それを確信した上でからかってきている。
「別に……散歩のコースなんてどこだっていいだろ」
分が悪いのを承知で、それでも俺は抗弁を試みる。せずにはいられない。
そして。
「意地はらなくったっていいのに……クロちゃんってばあいかわらずツンデレだねー」
そうして今回も、俺はこいつにいつもの台詞を言われ。
「だから、そんなんじゃないといっているだろうが!」
結局、またいつもどおりの会話を始めることになる。こいつと夜中に会うと、毎回こうだ。
「あのな――」
再び萌黄に背中を向けて歩き始めながら、俺は抗議する。
「そもそもなんたらデレなんてのは、基本的に恋愛感情があることに形容される言葉なんだろ」
「そーだね」
萌黄は、何てことなさそうに、当然のようについてきながら不毛な会話をつないでくる。
「じゃあ不適切だろう。俺と真白の間にそんなもんがありえると思ってんのか」
「ないの?」
「あってたまるか……」
しれっと返された言葉に、俺は頭大丈夫かこいつは、と思いながら溜息交じりに言葉を返した。
「あのなあ、何でそんなこと考えられるんだ?」
「えーだって。こうして話してるとクロちゃんまるっきり普通の男の子だしさー。いや、うちのクラスの男どもよりよっぽどいい奴だってあたし知ってるし?シ ロちゃんもその辺無意識に分かってんじゃないかなー。そりゃクロちゃんは普通の子より頭よくて魅力的だけどさ、シロちゃんのクロちゃんに対する信頼っぷ りってちょっとすごいなーと思うのよね」
まあ……前半はともかく、後半はちょっとひっかからないでもない。確かに真白の俺に対する態度はまったくもって謎だ。散々つれなくされてるくせに、なんでアイツは俺をあんなに信頼するんだろう。
さっさと飽きてもいいと思うのに。
さっさと見限ってもいいと思うのに。
そうなれば俺は――俺は、どうなるんだろうな。今はもう、想像できない。楽になるんだろうか。元に戻るんだろうか。それとも絶望するのか。
「もったいないよね。あんたがこんなふうに話せる奴だって分かったら、絶対シロちゃんもっと喜ぶと思うのに」
「……おい」
何気なく言った萌黄の言葉を聞きとがめて、俺はかなり押し殺した声でその言葉をさえぎる。
「ん?ああ違うよ?シロちゃんがこっち側の世界に来ればいいとは思ってないけど……なんかさー、あたしだけ悪いな、みたいな気持ちもあってさ」
空気の違いを察したのか、ちょっとばつ悪そうに萌黄はそういう。
「……とにかく、俺の真白に対する気持ちはそんなんじゃないし、真白も俺に対してそんなふうに考えるわけがないだろ。いくらお前でもその妄想は痛すぎる」
「そうかなぁ?」
言って萌黄は、くすくすと笑って眼を閉じた。とたん、ざわりと全身が撫でられるような、引っ張って伸ばされるような奇妙な感覚を覚える。このまま、この力に、彼女の思うままに身を任せれば、自分の身体が根本から作り変えられてしまいそうな。
「ねえ、本当にシロちゃんとちゃんと話そうと思わない?本当の自分分かってほしいって、そうしたら幸せになれるって思わないかなー」
…………。
萌黄が、何を言おうとしているのかは分かる。
だけど、それはやっぱりいくらなんでも無茶苦茶だ。いくら『彼女の世界』でも、そんなことが許されるとは思えない。
それに。
それに、俺は、結局。
「……思わない。俺と真白のあるべき関係は、そういうのとは違う」
あくまで、佐久間真白は、俺の、姉だ。
短い沈黙のあと、俺はいつもどおりの答えを返す。
たとえ俺の真白に対する反応がツンデレと呼ばれるものであっても。
俺の真白に対する気持ちは、佐久間家に対するためらいは、萌黄が思うような気持ちの問題じゃないのだ。
「ふーん」
やがて諦めたのか、萌黄が眼を開ける。
とたん、全身を包んでいた奇妙な感触は消えた。

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はぐれ雑文書き:凪池シリルです。
現在テラネット主催のウェブトークRPG Catch The Sky にてマスター活動中。ご縁がありましたらよろしく。
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