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凪池 シリルが時折ぽつぽつと呟く場です。 ゲームの話題が中心。日常ネタもそこそこと。 ちょっとずつ、何か書いて行けるといいなあ。

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第一回GA後期テーマ大賞応募作の第四話です。






「ところでさ」
会話しながら歩いていたせいで、ひどくゆっくりと歩いていたらしい。ようやっと校舎の昇降口にたどり着いたとき、萌黄がそれまでの空気を一変させるように、やたら明るくあっけらかんとした口調で言った。
「散歩なら、別に校舎忍び込む必要ないよね?」
…………ぐは。
会話に気をとられて何気なく歩いていたせいで、つい本来の目的地である校舎に向かってしまっていたが、そういえばさっきの言い訳に対してこれは不自然だ。
またか。またその話からやりなおしなのか。
もう今更こいつに対して色々ごまかしても仕方ない気がするのだが、それでも素直に「真白のため」と自分から認める態度をとるのはどうしてもためらいがある。
何故か?そんなの俺が聞きたい。とにかくやだったらやだ。こそばゆいったらこそばゆい。くそうなんなんだこれ。体質か。体質なんだ。だからしょうがないだろう。とにかく落ち着け。落ち着いて対処しろ。苦しくてもごまかせ。それが俺だ。
だからえーとどうする。何事もなく立ち去ってこいつがいなくなるのを見計らってから再突入か?
よし。
「あのさ」
そして俺が何か言おうとすると、萌黄に機先を制された。ぐうと言葉を飲み込むことになる俺。
「どうせただの散歩で暇なんだったら、『クラブ活動』のほう、手伝ってよ」
いいながら萌黄は意味ありげに扉を、その向こうをにやにやと見ていた。
その視線が言外に語る意味を俺は理解する。
――どうせ、本当は校舎の中に用があるんでしょう?
――この扉だって、君じゃあ開けるのに一苦労だよね。
――入りたいなら、一時的にでもあたしに協力したほうが得策だと思うけど。
――話を蒸し返されたくないなら、ね。
きっと、そんなところ。
それに反論するほどの材料は今、俺には、ない。
特に……最後の予想は強烈だ。ここで下手に拒否してまた不毛な会話を繰り返すなんざたまったもんじゃない。
「……いいだろう。ただ歩くのも退屈だったしな」
精一杯の強がりと自覚しながらも俺は、そう答える。
そして萌黄が再び眼を閉じる。
鍵がかけられ、堅く閉ざされていたはずの扉が、まるで異世界に招くようにぐにゃりと歪んでその口を開いた。

校舎の中は、ただでさえ頼りない明かりが窓によって絞られてますます薄暗い。
俺はともかく萌黄には相当やりにくいのではないかと振り返ると、僅かに顔をしかめながらもなんとか歩く様子が伺えた。
足取りは遅いが、ふらつくほどではない。明かりを灯そうという気はなさそうだ。まあ、いくら深夜とはいえやはりなるべく人目につきそうなことは避けたい。俺たちは特に確認することもなく、そのまましばらく廊下をひたひたと歩き始めた。
「……さてと」
玄関を抜け、しばらく進んだところで萌黄が口を開く。
「どこ向かおっか」
気楽に放たれた言葉に、俺はガクリと脱力した。
「……怪異はどこで起こってるんだよ」
「さあ?」
「…………おい」
「だって、現状クラブがとりあえず『気配』を察知しただけだもん。だからとりあえず調査ってか警戒に来ただけで具体的なことはわかってないのよねん」
あのなあ。
思わずじと目で睨む俺に萌黄は涼しい顔で、
「犠牲者がでてから動くんじゃ遅いでしょ」
ま、そりゃ、そうかもしれんが。
しかしそうすると、この薄暗がりの中、何かが起きるかもしれないという状態であてもなくしばらく時間をつぶさなきゃいけないわけか。やれやれ。
「ま、そういうわけだから、クロちゃんの行きたいところにいっていいよ」
ややうんざりする俺の様子を見て取ったか、萌黄はそんなことを言う。
ただ、その口調は申し訳ないというよりも……いつものように、いや、いつも以上にどこか皮肉気なもので。
……。
こいつ、まだ真白のことで俺をからかうつもりか。
くそ、そう言われて素直に「じゃあ真白の教室に」などと向かえる……わけがない、が……。
実のところ、俺は真白の『失くし物』がなんなのかわかっていない。
真白はいつも困った困ったと俺に言うだけで、あまり具体的な話はしてくれないのだ。
ならばとりあえず、真白の机や教室で不自然に隠れているものがないか探るのがいいかとは思うの……だが。
ああくそ。やっぱなんかしゃくだ。こいつの前で明らかに真白のことを考えて行動するなんざ。
そう、あくまで俺はただ夜の散歩に来ただけで別に真白のことなんて心配してるわけじゃないんだ、ここまで来たらこれで通してやる。
教室はいったん置いておこう。他に探すのに値する場所。考えろ考えろ……ん?
ふと気がついて、俺は一つ、教室よりも探してみたい場所を思いついた。
俺はふい、と向きを帰ると、無言でそこに向かって歩き始めた。
教室とは明らかに違う方向に萌黄が、お?と、少し意外そうにしてからついてくる気配を感じた。
ふん。

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はぐれ雑文書き:凪池シリルです。
現在テラネット主催のウェブトークRPG Catch The Sky にてマスター活動中。ご縁がありましたらよろしく。
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