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凪池 シリルが時折ぽつぽつと呟く場です。 ゲームの話題が中心。日常ネタもそこそこと。 ちょっとずつ、何か書いて行けるといいなあ。

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第一回GA後期テーマ大賞応募作の第九話です。






そしてまた、次の日の放課後。
吹奏楽部が、今日も活動を開始し、皆が自分の楽器を手にしようとばらばらと準備室に入ってくるのを、俺は昨日と同じ木の上から見ていた。
やがて、ためらいがちに真白もそこに入ってくる。そして。
「あれ?」
きょとんと、今まで入ってきた生徒と同じように、意外そうな声を上げた。
一番奥にある、開かないと思っていたロッカーが口をあけているのを見て。
彼女は、何か期待するかのようにぱたぱたとそこに走り寄る。
その中身を覗きこんで……
「やっぱり、ここにもないか……」
そして、心底がっかりした声で、そうつぶやいた。
その時。
全てを見ていた俺は、確信する。そうして、ひっそりと、すばやく『影』を準備室に向かって伸ばした。

やがてその日の部活動の時間も終わり、とぼとぼと校舎を出てきた真白に、俺は声をかける。
「あ、あれ!?クロノ!?どうして!」
酷く驚いた声を上げる真白に、俺は何も言わず背を向けて早足で歩き出す。
「わ、わ……」
慌てて彼女が追いかけてくるのを感じながら、俺はつかづ離れずの距離を保ちつつ歩き続ける。
「クロノ、どこ行くの?家、そっちじゃないよ?もう暗くなるから一緒にかえろ?」
戸惑いつつもついてくる彼女を誘導し、……そして、ある曲がり角で俺は急停止する。真白が曲がり角の先に行くことのないように、彼女に軽く飛びつくようにして進行を押しとどめる。
「え?クロ……」
彼女が小さく戸惑いの声を上げると同時に。
「ね、ねえ……大丈夫かな」
曲がり角の先から、不安そうに話し合う声が聞こえてきた。
「し、知らないわよ」
話しているのは、二人の少女。……うち一人は、見たことのある少女だった。一昨日、『怪異』に囚われていた彼女。
「だってさあ。なんで無くなってるの?あそこだよね、隠したの……」
「だから、知らないってば」
真白は、聞こえてきた声にどうしたらいいのか分からず立ち止まっておろおろとしている。……結果的に、二人の会話を立ち聞きする形になる。
「だけどあれ……学校のなんだから、ほんとになくなったら私たちのせいにならないかな」
少女のうち、気弱そうな片方が不安げにそう言うと、やがてもう一人は苛立って、叫ぶように、言った。
「うるさいなあ!ばれなければいいんでしょ!佐久間のフルート、最初に隠したのがあたしたちだって!」

『ロッカーの少女』の七不思議および、真白のフルートのありかという問題は確かに解決した。
だが一つ腑に落ちない点がある。初めに七不思議に呼ばれたのがあの少女であり、フルートが真白のものであった点だ。
噂どおりならば、『ロッカーの少女』に呼ばれるのは「楽器を渡した人間」であり、狂気の音楽を奏でるのは「渡した楽器」。
ならば「呼ばれた少女」が「真白の楽器」を渡したことになる。
そんな状況になったのは、少女が七不思議に遭遇したとき、たまたま抱えていたのが真白の楽器だったから。
ではどうしてそういうことになったのか。
彼女たちは、もともと真白の楽器に何らかの悪戯をするつもりだったのではないか。そして、そのときに『ロッカーの少女』に遭遇し、咄嗟に真白の楽器を渡した。こういうことではないのか。
彼女たちがその時点で、『ロッカーの少女』の存在を知っていたかどうかは定かではない。それはもう確かめようがない。七不思議は、あくまで「七」不思議であろうとするため、解決されるとその噂は人々の記憶から消えてしまうという性質を持つ。無力な噂が八個以上にならないためにだ。……どうやら、彼女たちの中で七不思議の記憶は「ロッカーの化け物に真白のフルートを渡した」ではなく「開けにくいロッカーに真白のフルートを隠した」に置き換わっているらしい。
だがそんなことはどうでもいい。ただどうやら彼女たちが初めから真白のフルートを隠そうとしていたことは事実だ。なら、その事実が伏せられたまま真白のフルートが見つかってめでたしめでたし、でいいのか。
……とはいえ、その報復を俺がするというのも筋違いの話に思えるし、そんなことを真白が望むとも思えないので、とりあえずこうして真白に事実を伝えるためにこうやってちょっとした小細工をしてみたわけだが。
「どういう……こと?」
真白は、そこで一歩踏み出して、呆然とつぶやいた。その身体にぎゅ、っと力がこもったのが分かる。
少女たちはとたんに青ざめた表情になる。
「し、知らないわよ!あんた立ち聞きしてたの!?何よ!」
少女のうち片方が、うろたえながらも逆ギレするように怒鳴り返す。きっと睨まれて真白は、しかし。
「答えて!私のフルート、どうしたの!?どこにあるの!」
真剣な表情で、強い口調でそう言い返して、ずいっと一歩前に出る。
……それは普段、大人しい真白からは考えられないことだったろう。
少女たちは明らかに気圧されて、互いに視線を合わせたり泳がせたりしている。
「……お願い」
一息ついてから、真白は少女たちに再び話しかける。
「私が何か悪いことしたなら、言って。私が悪いなら。でも……」
それは、一見下手に出ながらも、どこか強い、芯の通った声。
「……フルートは、返して。私、音楽が大好き。それは諦めない。譲れない。何されても、何て言われても」
顔を上げて、ぎゅっと前を見据えて、しっかりとそう、宣言する。
ああ……お前は本当に、音楽に関しては真剣なんだな。
『少女』と対峙したときの苛立ちを俺は思い出す。あんなまがい物とは違う、本当の強さ。本物の意思。お前ならたとえどんな妨害を受けたって怨んだりする前に、音楽とどう向き合うかを一番に考えられるんだろう。
……俺は思い知る。異能に目覚めて、逆転したと思っていた俺と真白の強さ。それが、再び逆転していくのを。
ただの気休めではなく、本当に真白を守れる、守るための存在になれたと思うのは、やっぱり思い上がり、妄想なんだろうかと。
単純に戦うための力とかそういうのとは関係なしに、真白は強い。俺よりも。
守ってやる、心配してやる必要なんか、本当は……ないのかもしれない。
……だけど。
きっと、そんなお前だからこそ、俺はお前に惹かれるんだろうな。
守るなんて思い上がりかもしれない。でも。
支えていきたいと、思うよ。これからも……ひっそりと。
やがて。
「ごめんなさい!」
少女のうち、気弱そうな一人が耐えかねて、叫ぶようにそういった。
「ごめんなさい!悪気はなかったの!ただ佐久間さん、上手だから羨ましくて……ちょっと困らせようと思っただけで……」
震えながらまくし立てる一方に、もう一人が「ちょ、ちょっと!?」と慌てるが、彼女は止まらない。
「あのロッカーに隠した後は、本当に分からないの!……ゴメン、一緒に探すから許して!」
そう言って、必死で頭を下げる少女。もう一人もやがて、これ以上ごまかすのは無理だと悟ったのか、「ゴメン……」と、そっぽを向いてばつ悪そうにつぶやいた。
それに対して、真白は。
「……ホント?」
落胆しつつも、柔らかい声で、そう応える。
「うん、分かった。一緒にさがそ?」
そうして、二人に向かって、ふわりと微笑んでみせた。
……それでいいのか。
そんなにあっさり許せてしまうのか。
少女たちも、そんな真白を、ポカーンと見つめている。
まったく……本当に大した奴というか、これはどうなんだろうな。
そして。
「じゃあ行こう!」
いきなり、いきおいよくそう宣言すると、くるりと踵を返……そうとして。
真白は、バランスを崩してすってーんと見事にこけた。
「うええ、クロノ~~」
……反射的に、巻き込まれないように移動して見せた俺を真白は羨むように、そしてすがるように見つめてくる。
やっぱ、さっきのは褒めすぎだったかもしれないな、うん。こいつはやっぱり、どんくさい。
どこか安堵しながら俺は、真白に手を貸すなんてことはもちろんせずに、ほら学校戻るんだろ、とばかりにふい、とそっけなく歩き始めたのだった。

そして、問題のフルートはどうして見つからなかったのか不思議なくらいあっさりと、件のロッカーの中から発見されたのだった。
まあ俺が隠蔽してたから、当たり前なんだが。

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はぐれ雑文書き:凪池シリルです。
現在テラネット主催のウェブトークRPG Catch The Sky にてマスター活動中。ご縁がありましたらよろしく。
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